水蒸気
列車の窓に花のごと凍てしを染むる
あかつきの色
Tag Archives: 花
[it-i222] 忘れがたき人人 – 二 (10)
馬鈴薯の花咲く頃と
なれりけり
君もこの花を好きたまふらむ
[it-i233] 忘れがたき人人 – 二 (21)
石狩の都の外の
君が家
林檎の花の散りてやあらむ
[st-w52] 四 深林の逍遥、其他 – 白壁
たれかしるらん花ちかき
高楼われはのぼりゆき
みだれて熱きくるしみを
うつしいでけり白壁に
唾にしるせし文字なれば
ひとしれずこそ乾きけれ
あゝあゝ白き白壁に
わがうれひありなみだあり
[st-w08] 一 秋の思 – 秋に隠れて
わが手に植えし白菊の
おのづからなる時くれば
一もと花の暮陰に
秋に隠れて窓にさくなり
[st-w35] 三 生のあけぼの – 哀歌
中野逍遥をいたむ
『秀才香骨幾人憐、秋入長安夢愴然、琴台旧譜盧前柳、風流銷尽二千年』、これ中野逍遥が秋怨十絶の一なり。逍遥字は威卿、小字重太郎、予州宇和島の人なりといふ。文科大学の異材なりしが年僅かに二十七にしてうせぬ。逍遥遺稿正外二篇、みな紅心の余唾にあらざるはなし。左に掲ぐるはかれの清怨を写せしもの、『寄語残月休長嘆、我輩亦是艶生涯』、合せかゝげてこの秀才を追慕するのこゝろをとゞむ。
思君九首 中野逍遥
思君我心傷 思君我容瘁
中夜坐松蔭 露華多似涙
思君我心悄 思君我腸裂
昨夜涕涙流 今朝尽成血
示君錦字詩 寄君鴻文冊
忽覚筆端香 窓外梅花白
為君調綺羅 為君築金屋
中有鴛鴦図 長春夢百禄
贈君名香篋 応記韓寿恩
休将秋扇掩 明月照眉痕
贈君双臂環 宝玉価千金
一鐫不乖約 一題勿変心
訪君過台下 清宵琴響揺
佇門不敢入 恐乱月前調
千里囀金鴬 春風吹緑野
忽発頭屋桃 似君三両朶
嬌影三分月 芳花一朶梅
渾把花月秀 作君玉膚堆
かなしいかなや流れ行く
水になき名をしるすとて
今はた残る歌反古の
ながき愁ひをいかにせむ
かなしいかなやする墨の
いろに染めてし花の木の
君がしらべの歌の音に
薄き命のひゞきあり
かなしいかなや前の世は
みそらにかゝる星の身の
人の命のあさぼらけ
光も見せでうせにしよ
かなしいかなや同じ世に
生れいでたる身を持ちて
友の契りも結ばずに
君は早くもゆけるかな
すゞしき眼つゆを帯び
葡萄のたまとまがふまで
その面影をつたへては
あまりに妬き姿かな
同じ時世に生れきて
同じいのちのあさぼらけ
君からくれないの花は散り
われ命あり八重葎
かなしいかなやうるはしく
さきそめにける花を見よ
いかなればかくとゞまらで
待たで散るらんさける間も
かなしいかなやうるはしき
なさけもこひの花を見よ
いと/\清きそのこひは
消ゆとこそ聞けいと早く
君し花とにあらねども
いな花よりもさらに花
君しこひとにあらねども
いなこひよりもさらにこひ
かなしいかなや人の世に
あまりに惜しき才なれば
病に塵に悲に
死にまでそしりねたまるゝ
かなしいかなやはたとせの
ことばの海のみなれ棹
磯にくだくる高潮の
うれひの花とちりにけり
かなしいかなや人の世の
きづなも捨てて嘶けば
つきせぬ草に秋は来て
声も悲しき天の馬
かなしいかなや音を遠み
流るゝ水の岸にさく
ひとつの花に照らされて
飄り行く一葉舟
[st-w28] 三 生のあけぼの – 五 うてや鼓
うてや鼓の春の音
雪にうもるゝ冬の日の
かなしき夢はとざされて
世は春の日とかはりけり
ひけばこぞめの春霞
かすみの幕をひきとじて
花と花とをぬふ糸は
けさもえいでしあをやなぎ
霞のまくをひきあけて
春をうかゞふことなかれ
はなさきにほふ蔭をこそ
春の台といふべけれ
小蝶よ花にたはぶれて
優しき夢をみては舞ひ
酔ふて羽袖もひら/\と
はるの姿をまひねかし
緑のはねのうぐひすよ
梅の花笠ぬひそへて
ゆめ静なるはるの日の
しらべを高く歌へかし
[st-w24] 三 生のあけぼの – 一 たれかおもはむ
たれかおもはむ鴬の
涙もこほる冬の日に
若き命は春の夜の
花にうつろふ夢の間と
あゝよしさらば美酒に
うたひあかさん春の夜を
梅のにほひにめぐりあふ
春を思へばひとしれず
からくれないのかほばせに
流れてあつきなみだかな
あゝよしさらば花影に
うたひあかさん春の夜を
わがみひとつもわすられて
おもひわづらふこゝろだに
春のすがたをとめくれば
たもとににほふ梅の花
あゝよしさらば琴の音に
うたひあかさん春の夜を
[st-w15] 一 秋の思 – 別離
人妻をしたへる男の山に登り其
女の家を望み見てうたへるうた
誰かとゞめん旅人の
あすは雲間に隠るゝを
誰か聞くらん旅人の
あすは別れと告げましを
清き恋とや片し貝
われのみものを思ふより
恋はあふれて濁るとも
君に涙をかけましを
人妻恋ふる悲しさを
君がなさけに知りもせば
せめてはわれを罪人と
呼びたまふこそうれしけれ
あやめもしらぬ憂しや身は
くるしきこひの牢獄より
罪の鞭責をのがれいで
こひて死なんと思ふなり
誰かは花をたづねざる
誰かは色彩に迷はざる
誰かは前にさける見て
花を摘まんと思はざる
恋の花にも戯るゝ
嫉妬の蝶の身ぞつらき
二つの羽もをれ/\て
翼の色はあせにけり
人の命を春の夜の
夢といふこそうれしけれ
夢よりもいや/\深き
われに思ひのあるものを
梅の花さくころほひは
蓮さかばやと思ひわび
蓮の花さくころほひは
萩さかばやと思ふかな
待つまも早く秋は来て
わが踏む道に萩さけど
濁りて待てる吾恋は
清き怨となりにけり
[st-w14] 一 秋の思 – 強敵
一つの花に蝶と蜘蛛
小蜘蛛は花を守り顔
小蝶は花に酔ひ顔に
舞へども/\すべぞなき
花は小蜘蛛のためならば
小蝶の舞をいかにせむ
花は小蝶のためならば
小蜘蛛の糸をいかにせむ
やがて一つの花散りて
小蜘蛛はそこに眠れども
羽翼も軽き小蝶こそ
いづこともなくうせにけれ