をとこの気息のやはらかき
お夏の髪にかゝるとき
をとこの早きためいきの
霰のごとくはしるとき
をとこの熱き手の掌の
お夏の手にも触るゝとき
をとこの涙ながれいで
お夏の袖にかゝるとき
をとこの黒き目のいろの
お夏の胸に映るとき
をとこの紅き口唇の
お夏の口にもゆるとき
人こそしらね嗚呼恋の
ふたりの身より流れいで
げにこがるれど慕へども
やむときもなき清十郎
をとこの気息のやはらかき
お夏の髪にかゝるとき
をとこの早きためいきの
霰のごとくはしるとき
をとこの熱き手の掌の
お夏の手にも触るゝとき
をとこの涙ながれいで
お夏の袖にかゝるとき
をとこの黒き目のいろの
お夏の胸に映るとき
をとこの紅き口唇の
お夏の口にもゆるとき
人こそしらね嗚呼恋の
ふたりの身より流れいで
げにこがるれど慕へども
やむときもなき清十郎
たれかしるらん花ちかき
高楼われはのぼりゆき
みだれて熱きくるしみを
うつしいでけり白壁に
唾にしるせし文字なれば
ひとしれずこそ乾きけれ
あゝあゝ白き白壁に
わがうれひありなみだあり
天の河原にやほよろづ
ちよろづ神のかんつどひ
つどひいませしあめつちの
始のときを誰か知る
それ大神の天雲の
八重かきわけて行くごとく
野の鳥ぞ啼く東路の
碓氷の山にのぼりゆき
日は照らせども影ぞなき
吾妻はやとこひなきて
熱き涙をそゝぎてし
尊の夢は跡も無し
大和の国の高市の
雷山に御幸して
天雲のへにいほりせる
御輦のひゞき今いづこ
目をめぐらせばさゞ波や
志賀の都は荒れにしと
むかしを思ふ歌人の
澄める怨をなにかせん
春は霞める高台に
のぼりて見ればけぶり立つ
民のかまどのながめさへ
消えてあとなき雲に入る
冬はしぐるゝ九重の
大宮内のともしびや
さむさは雪に凍る夜の
竜のころもはいろもなし
むかしは遠き船いくさ
人の血潮の流るとも
今はむなしきわだつみの
まん/\としてきはみなし
むかしはひろき関が原
つるぎに夢を争へど
今は寂しき草のみぞ
ばう/\としてはてもなき
われ今秋の野にいでて
奥山高くのぼり行き
都のかたを眺むれば
あゝあゝ熱きなみだかな
男ごころをたとふれば
つよくもくさをふくかぜか
もとよりかぜのみにしあれば
きのふは東けふは西
女ごころをたとふれば
かぜにふかるゝくさなれや
もとよりくさのみにしあれば
きのふは南けふは北
花橘の袖の香の
みめうるはしきをとめごは
真昼に夢を見てしより
さめて忘るゝ夜のならひ
白日の夢のなぞもかく
忘れがたくはありけるものか
ゆめと知りせばなまなかに
さめざらましを世に出でて
うらわかぐさのうらわかみ
何をか夢の名残ぞと
問はゞ答へん目さめては
熱き涙のかわく間もなし
君と遊ばん夏の夜の
青葉の影の下すゞみ
短かき夢は結ばずも
せめてこよひは歌へかし
雲となりまた雨となる
昼の愁ひはたえずとも
星の光をかぞへ見よ
楽みのかず夜は尽きじ
夢かうつゝか天の川
星に仮寝の織姫の
ひゞきもすみてこひわたる
梭の遠音を聞かめやも
門にたち出でたゞひとり
人待ち顔のさみしさに
ゆふべの空をながむれば
雲の宿りも捨てはてて
何かこひしき人の世に
流れて落つる星一つ
波に生れて波に死ぬ
情の海のかもめどり
恋の激浪たちさわぎ
夢むすぶべきひまもなし
闇き潮の驚きて
流れて帰るわだつみの
鳥の行衛も見えわかぬ
波にうきねのかもめどり
浮べる雲と身をなして
あしたの空に出でざれば
などしるらめや明星の
光の色のくれないを
朝の潮と身をなして
流れて海に出でざれば
などしるらめや明星の
清みて哀しききらめきを
なにかこひしき暁星の
空しき天の戸を出でて
深くも遠きほとりより
人の世近く来るとは
潮の朝のあさみどり
水底深き白石を
星の光に透かし見て
朝の齢を数ふべし
野の鳥ぞ啼く山河も
ゆふべの夢をさめいでて
細く棚引くしのゝめの
姿をうつす朝ぼらけ
小夜には小夜のしらべあり
朝には朝の音もあれど
星の光の糸の緒に
あしたの琴は静なり
まだうら若き朝の空
きらめきわたる星のうち
いと/\若き光をば
名けましかば明星と
くめどつきせぬ
わかみづを
きみとくまゝし
かのいづみ
かわきもしらぬ
わかみづを
きみとのまゝし
かのいづみ
かのわかみづと
みをなして
はるのこゝろに
わきいでん
かのわかみづと
みをなして
きみとながれん
花のかげ