くめどつきせぬ
わかみづを
きみとくまゝし
かのいづみ
かわきもしらぬ
わかみづを
きみとのまゝし
かのいづみ
かのわかみづと
みをなして
はるのこゝろに
わきいでん
かのわかみづと
みをなして
きみとながれん
花のかげ
くめどつきせぬ
わかみづを
きみとくまゝし
かのいづみ
かわきもしらぬ
わかみづを
きみとのまゝし
かのいづみ
かのわかみづと
みをなして
はるのこゝろに
わきいでん
かのわかみづと
みをなして
きみとながれん
花のかげ
わかれゆくひとををしむとこよひより
とほきゆめちにわれやまとはん
妹
とほきわかれに
たへかねて
このたかどのに
のぼるかな
かなしむなかれ
わがあねよ
たびのころもを
とゝのへよ
姉
わかれといへば
むかしより
このひとのよの
つねなるを
ながるゝみづを
ながむれば
ゆめはづかしき
なみだかな
妹
したへるひとの
もとにゆく
きみのうへこそ
たのしけれ
ふゆやまこえて
きみゆかば
なにをひかりの
わがみぞや
姉
あゝはなとりの
いろにつけ
ねにつけわれを
おもへかし
けふわかれては
いつかまた
あひみるまでの
いのちかも
妹
きみがさやけき
めのいろも
きみくれないの
くちびるも
きみがみどりの
くろかみも
またいつかみん
このわかれ
姉
なれがやさしき
なぐさめも
なれがたのしき
うたごえも
なれがこゝろの
ことのねも
またいつきかん
このわかれ
妹
きみのゆくべき
やまかはは
おつるなみだに
みえわかず
そでのしぐれの
ふゆのひに
きみにおくらん
はなもがな
姉
そでにおほへる
うるはしき
ながかほばせを
あげよかし
ながくれないの
かほばせに
ながるゝなみだ
われはぬぐはん
潮さみしき荒磯の
巌陰われは生れけり
あしたゆふべの白駒と
故郷遠きものおもひ
をかしくものに狂へりと
われをいふらし世のひとの
げに狂はしの身なるべき
この年までの処女とは
うれひは深く手もたゆく
むすぼほれたるわが思
流れて熱きわがなみだ
やすむときなきわがこゝろ
乱れてものに狂ひよる
心を笛の音に吹かん
笛をとる手は火にもえて
うちふるひけり十の指
音にこそ渇け口唇の
笛を尋ぬる風情あり
はげしく深きためいきに
笛の小竹や曇るらん
髪は乱れて落つるとも
まづ吹き入るゝ気息を聴け
力をこめし一ふしに
黄楊のさし櫛落ちてけり
吹けば流るゝ流るれば
笛吹き洗ふわが涙
短き笛の節の間も
長き思のなからずや
七つの情声を得て
音をこそきかめ歌神も
われ喜を吹くときは
鳥も梢に音をとゞめ
怒をわれの吹くときは
瀬を行く魚も淵にあり
われ哀を吹くときは
獅子も涙をそゝぐらむ
われ楽を吹くときは
虫も鳴く音をやめつらむ
愛のこゝろを吹くときは
流るゝ水のたち帰り
悪をわれの吹くときは
散り行く花も止りて
慾の思を吹くときは
心の闇の響あり
うたへ浮世の一ふしは
笛の夢路のものぐるひ
くるしむなかれ吾友よ
しばしは笛の音に帰れ
落つる涙をぬぐひきて
静かにきゝね吾笛を
秋は来ぬ
秋は来ぬ
一葉は花は露ありて
風の来て弾く琴の音に
青き葡萄は紫の
自然の酒とかはりけり
秋は来ぬ
秋は来ぬ
おくれさきだつ秋草も
みな夕霜のおきどころ
笑ひの酒を悲みの
杯にこそつぐべけれ
秋は来ぬ
秋は来ぬ
くさきも紅葉するものを
たれかは秋に酔はざらめ
智恵あり顔のさみしさに
君笛を吹けわれはうたはむ
男ごころをたとふれば
つよくもくさをふくかぜか
もとよりかぜのみにしあれば
きのふは東けふは西
女ごころをたとふれば
かぜにふかるゝくさなれや
もとよりくさのみにしあれば
きのふは南けふは北
うてや鼓の春の音
雪にうもるゝ冬の日の
かなしき夢はとざされて
世は春の日とかはりけり
ひけばこぞめの春霞
かすみの幕をひきとじて
花と花とをぬふ糸は
けさもえいでしあをやなぎ
霞のまくをひきあけて
春をうかゞふことなかれ
はなさきにほふ蔭をこそ
春の台といふべけれ
小蝶よ花にたはぶれて
優しき夢をみては舞ひ
酔ふて羽袖もひら/\と
はるの姿をまひねかし
緑のはねのうぐひすよ
梅の花笠ぬひそへて
ゆめ静なるはるの日の
しらべを高く歌へかし
はるあきにおもひみたれてわきかねつ
ときにつけつゝうつるこゝろは
妹
たのしからずや
はなやかに
あきはいりひの
てらすとき
たのしからずや
ぶだうばの
はごしにくもの
かよふとき
姉
やさしからずや
むらさきの
ぶだうのふさの
かゝるとき
やさしからずや
にひぼしの
ぶだうのたまに
うつるとき
妹
かぜはしづかに
そらすみて
あきはたのしき
ゆふまぐれ
いつまでわかき
をとめごの
たのしきゆめの
われらぞや
姉
あきのぶだうの
きのかげの
いかにやさしく
ふかくとも
てにてをとりて
かげをふむ
なれとわかれて
なにかせむ
妹
げにやかひなき
くりごとも
ぶだうにしかじ
ひとふさの
われにあたへよ
ひとふさを
そこにかゝれる
むらさきの
姉
われをしれかし
えだたかみ
とゞかじものを
かのふさは
はかげのたまに
てはふれて
わがさしぐしの
おちにけるかな
みそらをかける猛鷲の
人の処女の身に落ちて
花の姿に宿かれば
風雨に渇き雲に饑え
天翅るべき術をのみ
願ふ心のなかれとて
黒髪長き吾身こそ
うまれながらの盲目なれ
芙蓉を前の身とすれば
涙は秋の花の露
小琴を前の身とすれば
愁は細き糸の音
いま前の世は鷲の身の
処女にあまる羽翼かな
あゝあるときは吾心
あらゆるものをなげうちて
世はあじきなき浅茅生の
茂れる宿と思ひなし
身は術もなき蟋蟀の
夜の野草にはひめぐり
たゞいたづらに音をたてて
うたをうたふと思ふかな
色にわが身をあたふれば
処女のこゝろ鳥となり
恋に心をあたふれば
鳥の姿は処女にて
処女ながらも空の鳥
猛鷲ながら人の身の
天と地とに迷ひいる
身の定めこそ悲しけれ
今しもわたる深山かぜ
春はしづかに吹きかよふ
林の簫の音をきけば
風のしらべにさそはれて
みれどもあかぬ白妙の
雲の羽袖の深山木の
千枝にかゝりたちはなれ
わかれ舞ひゆくすがたかな
樹々をわたりて行く雲の
しばしと見ればあともなき
高き行衛にいざなはれ
千々にめぐれる巌影の
花にも迷ひ石に倚り
流るゝ水の音をきけば
山は危ふく石わかれ
削りてなせる青巌に
砕けて落つる飛潭の
湧きくる波の瀬を早み
花やかにさす春の日の
光炯照りそふ水けぶり
独り苔むす岩を攀じ
ふるふあゆみをふみしめて
浮べる雲をうかゞへば
下にとゞろく飛潭の
澄むいとまなき岩波は
落ちていづくに下るらん
山精
なにをいざよふ
むらさきの
ふかきはやしの
はるがすみ
なにかこひしき
いはかげを
ながれていづる
いづみがは
木精
かくれてうたふ
野の山の
こえなきこえを
きくやきみ
つゝむにあまる
はなかげの
水のしらべを
しるやきみ
山精
あゝながれつゝ
こがれつゝ
うつりゆきつゝ
うごきつゝ
あゝめぐりつゝ
かへりつゝ
うちわらひつゝ
むせびつゝ
木精
いまひのひかり
はるがすみ
いまはなぐもり
はるのあめ
あゝあゝはなの
つゆに酔ひ
ふかきはやしに
うたへかし
天の河原にやほよろづ
ちよろづ神のかんつどひ
つどひいませしあめつちの
始のときを誰か知る
それ大神の天雲の
八重かきわけて行くごとく
野の鳥ぞ啼く東路の
碓氷の山にのぼりゆき
日は照らせども影ぞなき
吾妻はやとこひなきて
熱き涙をそゝぎてし
尊の夢は跡も無し
大和の国の高市の
雷山に御幸して
天雲のへにいほりせる
御輦のひゞき今いづこ
目をめぐらせばさゞ波や
志賀の都は荒れにしと
むかしを思ふ歌人の
澄める怨をなにかせん
春は霞める高台に
のぼりて見ればけぶり立つ
民のかまどのながめさへ
消えてあとなき雲に入る
冬はしぐるゝ九重の
大宮内のともしびや
さむさは雪に凍る夜の
竜のころもはいろもなし
むかしは遠き船いくさ
人の血潮の流るとも
今はむなしきわだつみの
まん/\としてきはみなし
むかしはひろき関が原
つるぎに夢を争へど
今は寂しき草のみぞ
ばう/\としてはてもなき
われ今秋の野にいでて
奥山高くのぼり行き
都のかたを眺むれば
あゝあゝ熱きなみだかな